890: おさかなくわえた名無しさん 2005/01/17 21:21:02 ID:9lidUDYq
俺が20歳の頃、付き合っていた彼女との話 
高校の頃から付き合い始めて2年が過ぎた頃だった。 
彼女は母親が蒸発して、いわゆる父子家庭だったが付き合いが長くなるにつれ、彼女の親父さんも俺たち二人の仲を認めてくれて、回数は少ないものの夕飯や麻雀など一緒にするほどの関係になっていった。 
確か夏ごろだったと思う。彼女から親父さんの体調がおかしい、食欲が無く、食べても戻すことが多くなったと聞いた。 
その後間もなく検査の為に入院した。検査結果は「ガン」。そして一縷の望みをつないだ開腹手術も患部は手がつけられない状態で。食事をできるようにするためにバイパス手術だけに留められた。 
その一部始終を彼女は俺に話してくれ目の前で泣き崩れた。そんな彼女に俺は何も言えず、ただ抱きしめるしかなかった。 
実はガンの宣告を受ける直前、親父さんを見舞ったことがある。その時は俺も体調を崩していたため、逆に親父さんが心配してくれた。 
バイパス手術の後、一時的に食事ができるようになったため退院した。俺はその時彼女に親父さんに次にいつ会えるか分からない。せめて今のうちに逢わせて貰えるように頼んでみた。答えはNoだった。 
彼女曰く、俺の気持ちを長兄に話したところ本人に病気を伏せている以上、俺が逢いに行くことで本人が気づいてしまう可能性がある。そして、いくら付き合いが長く家庭の事情を理解しているとはいえ、他人の俺になぜ父親のことを話したと怒られたということだった。 
彼女も本心は俺と親父さんを逢わせたかったようだが、長兄に強く拒絶され、すまなそうに「ごめんね。諦めて」と言うしかできなく、俺自身も長兄の言い分に納得し諦めて、何も出来ないけど彼女を支えていく覚悟を決めた。

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891: おさかなくわえた名無しさん 2005/01/17 21:23:16 ID:9lidUDYq
続き。長くなってすみません。 
親父さんが退院してからというもの彼女は俺と逢う度に泣き続けた。 
「ごめんね。家だとお父さんに悟られるから泣けないの。お兄ちゃんにも泣くなって言われるし。貴方には悪いけど思い切り泣かせて」と言う彼女。俺は「分かってる。だから気にするな。ここでいくらでも泣いていいから家に帰ったら頑張れ」と言うしかなかった。 
そういって彼女を元気付けようとする俺も初めて直面する身近の人の死の重さと、彼女との今後の事を考えて眠れない夜が何日もあった。 

そうして何とか新年を向かえることが出来、大晦日から家族で温泉に出かけたが、3が日が終わると同時に 
力尽きるように容態が悪化し再入院することになった。 
前もって彼女からは「もしもの時が来るまで、はお父さんの傍にいてあげたい。だから逢えなくなるけど許して」と言われていたので、俺からも「俺はお前を見守ってやるしかできない。でも俺の分も親父さんのことを頼む」と話していた。 
時々入る彼女の電話で親父さんの容態が聞かされる。2月に入る頃には「背中から点滴入れられたの。」とか 
「痛み止めのせいで、幻覚を見るのか変なことを言うの」と言われたときには直感的に「とうとうモルヒネまで使っているのか」と思い、口には出さなかったが悲しい結末が近いことを悟った。

892: おさかなくわえた名無しさん 2005/01/17 21:28:40 ID:9lidUDYq
続き  
そして、その結末は3月に入っていきなりやってきた。 
俺が大学に行っている間に危篤の報が入った。 
思わず、病院に駆けつけようか色めき立つが病院は電車で3時間近いところにあり、 
諦めて次の連絡を待つと次の連絡はいきなり通夜の場所が早口で告げられただけだった。 
取るものもとりあえず、通夜に駆けつけ読経が流れる中彼女を捜すと遺族席で肩を落として座っていた。 
焼香を済ませて、彼女の傍に行こうとしたが目立つことも有り、会話をすることは出来ず 
ただ目を合わせてその日は帰ることにした。 
翌日の告別式にも参列したが、彼女は昨晩も泣いたのか目が腫れていた。 
静かにお経が流れる中俺は親父さんの遺影と彼女の後姿を見つめていたのでいつもより短く感じた。 
一通り、焼香が済み出棺のとき、外で待っていると次兄が位牌を抱いて外へ出てきたので、 
俺はお悔やみを言うつもりが、その真っ赤に泣きはらした目をみた途端言葉が出ず 
「ご愁傷様です・・・・残念です・・」と言う言葉しか言えなかった。 
そして次にやっと彼女が俺の傍にやってきた。 
「昨日は話が出来なくてごめんね。それに二日間も来てくれて有難う」といった後 
「あのね。お兄ちゃんが、この後予定がなければ、火葬場まできてお父さんのお骨を拾ってくれないかって言ってるんだけど」と言ってきた。 
俺はその申し出にびっくりしたが、他の親類がいるし何故か目立ってはいけないとの思いから 
「ごめん。行けないよ。でもそう言ってくれて嬉しいよ。あとで落ち着いたら電話して」としか言えなかった。 
でも、あれだけ、親父さんとの面会を拒否し、彼女が俺に話したことにさえ怒りを露にした長兄の気持ちが痛いほど嬉しかった。 
なんだか、この数ヶ月間が報われたような気がした。 
彼女は残念そうだったが、そのまま火葬場に向かう兄の車に向かっていった。 
彼女が傍から離れ、火葬場へ向かう車列が動きだした瞬間、俺はそれまで抑えていたものが一気にこみ上げてきて、 
あやうく嗚咽をもらしそうになった。 
その嗚咽を無理やり口で押さえ込み、 
車列に背を向けて見送ることができなかった。

893: おさかなくわえた名無しさん 2005/01/17 21:30:01 ID:9lidUDYq
最後です。 
あれから、もう15年以上が経つ。 
その彼女とはその2年後に別れてしまい、 
今はお互い違う相手と結婚した。 
今でもその告別式が行われたお寺の前を通るとあの日のことを思い出す。 
彼女の親父さんが安置されている場所でもあるそのお寺。 
今度線香を上げに行ってみたいと思う 

長レス すみません。

895: おさかなくわえた名無しさん 2005/01/17 21:49:55 ID:+CRX1aUn
>>893 
( ´_ゝ`)フーン 























(( ´_ゝ`+)。ポロ 
( つ_ゝ`)泣いて無いぞ!

901: おさかなくわえた名無しさん 2005/01/18 01:29:42 ID:537VWw1t
>>893 
美談ですな

引用元: (⊃д`) せつない想い出 その6 (´・ω・`)