50: 癒されたい名無しさん 2006/12/10 22:15:45 ID:OLFPHGoD
ニューヨークの郊外にその喫茶店はあった。 
店の名前と 

“水曜 定休日” 

とだけ書かれたぶっきらぼうな看板の奥にひっそりと佇む。 
店のマスターは無口で頑固。 
その店のジュークボックスには 
マスターが好きな、イギリス出身で世界的に大ブレークした、 
今はもう解散してしまったグループの曲しかない。 


ある年のちょうど今くらいの季節。 
その日は昼下がりに突然大雨が降り出した。 
通りには濡れながら急ぎ足で行き交う人々。 
その中の1人が店に入ってきた。 

全身が濡れそぼり寒さでガタガタ震えるその男は、 
マスターが好きなバンドのメンバーの1人だった。 
おそらくその事に気付いたのであろう。 
マスターは一瞬目を見張り動きを止める。 
しかしすぐに手馴れた作業に戻り、 
注文されたコーヒーと乾いたタオルを差し出す。 

続く

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51: 癒されたい名無しさん 2006/12/10 22:17:15 ID:OLFPHGoD
身体を拭き、眼鏡をふき、コーヒーを飲みながら店内を見回す男。 
店の隅に佇むジュークボックスに目を留める。 
自分がやっていたバンドの曲しか入ってない事に気付いた男は 
照れくさそうにコインを取り出し、曲を演奏させる。 
流れ出した曲を聴きながら男は 
自分たちが走り抜けてきた青春時代を懐かしむように目を閉じ、 
ゆっくりゆっくりとコーヒーを飲んだ。 

何曲か聴き、コーヒーを飲み終えて店を出ようとする男に、 
マスターは黙って傘を差し出した。 
外はまだ雨が降り続いている。 
男は受け取り、礼とともに笑いながら言った。 

「今度雨が降ったら返しに来るよ。」 

しかし、男が傘を返しに来ることはなかった。 
それから数週間後、男は自宅前で凶弾に倒れたのだ。 

それから20数年が経った今でも 
その喫茶店は同じように看板の奥に佇んでいる。 
年老いたが相変わらず無口なマスター。 
ジュークボックスも同じバンドの曲ばかり。 
店の中は何一つ変わっていないが、 
看板に書かれてる文字はいつからか変えられていた。 

“水曜 定休日 
 ただし、雨の日は営業いたします” 

誰のことでしょう?

引用元: 【泣ける話】